2021/01/01 (Fri)00:00
短期企画「冒険の終わりに」に参加させていただいた自PC、リュシー・フレーズの最期です。
一か月の間お付き合いいただきましてありがとうございました。
一か月の間お付き合いいただきましてありがとうございました。
もうじきに年が明け新年が始まろうとしているころ、リュシーは走っていた。家族に宛てて年一番の便で送る荷物に手紙を入れ忘れてしまったのだ。荷物の受付は今日の24時までだったはずだ、急げばまだ間に合う。人通りはほとんどない。彼女はがらんとした道を駆けていく。頭の中で運送屋の場所を思いだし、自分が知る限りのリーンの地図と照らし合わせる。この道を進めば近道になるはずだ。何本かの細い通りを抜けて、彼女は走る。
彼女は、自分が普段通らない裏通りに近づいていて、それが危険であることにことに気づかなかった。普段から平和な依頼を選んで受けていた彼女は、街中で襲われることを考えていなかったし、直接の攻撃にさらされることの少ない彼女は、不意の一撃に反応することもできなかった。
ゴツッ、という重く鈍い音がすぐ近くで聞こえて、彼女は強い衝撃に体が吹き飛ぶのを感じた。腕を捕まれて、暗がりに引っ張られる。自分の体ではないように軽々と体は暗がりへと飛び込んでいった。男の二人組が木でできたこん棒を持っていた。そのうちの一人がこん棒を振り上げて、勢いをつけて振り下ろした。こん棒がどのように襲ってくるか、その軌跡が彼女にははっきりと見えた。しかし彼女はそれを避けることができなかった。不思議と音はせず、衝撃だけが襲った。横に流れていく視界が殴られたことを彼女に教えた。そうして地面に倒れて、頭に激しい痛みが襲ってきた。ぬるぬるした何かが顔を這っていった。意識とは関係なしにうめき声が漏れた。
「生きてるぜ」
男がしゃべった。
「ああ」
ともう一人の男が答えて、彼女の後頭部にこん棒を振り下ろした。血がついた木の塊と地面とに挟まれて、痩せぎみの彼女の体がびくんと跳ねた。地面に少しずつ血だまりが出来上がっていった。
頭が割れるように痛いが、同時にひどく眠たかった。痛みと眠気が一緒になった奇妙な感覚が思考を覆い隠して、自分が何をしていたのかを思いだすことができなかった。自分が地面に倒れていることに疑問すら抱かなかったし、まるでそこは寝床のように感じられた。
(眠い、な……いつもならそろそろ寝る時間だから……)
景色が変に赤色に染まっている。眼が痛くて開けていられなかった。眼を閉じると、急に意識が自分の奥底の方へ引っ張られていった。
(でも、今日は、よふかし……そうだ、コーヒー、を……のまな、いと…………)
男がさらに振り下ろしたこん棒は力強く彼女の頭蓋を砕いて、彼女を二度と覚めない眠りに落とした。
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「おい、こいつたんまり持ってるぜ」
「マジか!見た目ボロいからハズレ引いたかと思ったんだがついてんなあ。へへ、神さんも今日は俺たちに微笑んでくれたな」
「ははは、ちげえねえや!」
男たちはリュシーの死体を漁り、財布を盗み出した。彼女が一ヶ月の間冒険と仕事とで稼いだお金は実家への仕送りで大きく減っていたが、それでも一般人からすればそれなりの額だった。こうした計画性のない追い剥ぎで獲られる額としては上等だ。男は満足げな顔をして財布を懐にしまった。
「それにしても、けっこう可愛いじゃねえの。殺す前に一発ヤっときゃよかったな」
「バカ言うな。こんな寒いとこで出しても勃たねえだろうが。さっさと行くぞ」
「そりゃあそうだ!じゃあな、嬢ちゃん。お前のおかげで新年は最高のスタートだよ」
男たちが去ると、その暗がりには彼女だったものが一つ残された。
冷たくなった彼女の死体はやがて発見されるだろう。つぎはぎのあたたかなケープも、白いオーナメントの首飾りも、彼女の血の赤にまみれているだろう。懐に入っている派手な装飾の便箋に書かれた手紙の内容から、やがて望む夕明亭に連絡が行くだろう。そうして彼女の名前の上には横線が引かれるだろう。それで彼女の冒険は終わりだ。
-At the end of the adventure-
Lucie Fraise, Requiescat In Pace.
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定期更新ゲームの記事を書くはずだった何か。現在は物置。
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